如律令(にょりつりょう)とは

こんにちは。
陰陽道・陰陽師研究家の高橋圭也です。
前回は、陰陽師の実際の仕事について触れてきましたが、今回は皆さんもよく耳にするであろう「急々如律令」についてお話ししていきたいと思います。

私は「陰陽師や陰陽道の陰陽は、陰や陽とか、陰陽五行説から来たものではない。実は古代の律令制で陰陽は占いを意味し、道は官庁を指す」と述べてきました。
では、この律令制とはいったい何を指すのでしょうか?
実はこの律令制は古代中国で発達し、古代日本をはじめとした東アジアの各国に広がった法制度のことで、刑法である律(りつ)と行政法や基本法典である令(りょう)を意味します。
さて、古代中国では律令制の中に規定されている事項を含んだ文章を公文書にする際にその文末に「如律令(にょりつりょう、りつりょうのごとし)とつけるようになりました。つまり「如律令」は法制用語の一つで、公文書を書く際にその最後に付ける書式だったわけで、本来は今日のように「急々」(急ぎ急いで、速やかに)をつけて呪文や霊符の後に付けるような言葉ではなかったのです。


「急々如律令」(きゅうきゅうにょりつりょう)は
速達のハンコ?


実は、こんな笑い話があります。「昔、古代中国では馬車で数時間の距離の隣の地域の役所へ文書を送ってもその文書が届け先の隣の役所の部署に到着するまで、あちこちの中継地や部署をタライ回しにされて、目的の役所の部署に到達するまで数週から数ヶ月間かかったため、それを早く届くようにするために『律令制で定まっている内容だから早く届けろ。これは皇帝からの命令と同じものだ!』の意味で文書の最後に『急々如律令』と書いたのだ」というものです。つまり、急々如律令は現代のハガキや封書に押す速達のハンコみたいなものだった、ということでしょうか?


急々如律令が呪文や霊符の慣用句に

ところがこの急々如律令という言葉が、理由はよく分からないのですが、いつの間にか中国の古い時代から道教の呪文や霊符に受け継がれ、その最後につくようになっていきました。
これは恐らく公文書の最後についた急々如律令の場合は皇帝の絶対的命令、つまりその権威によって文書に書かれた内容を速やかに進行させる、という目的だったものを真似して、道教の呪文や霊符の後に急々如律令をつけると、天界を治める天帝の絶対的権威で呪文や霊符が目的とする内容に強い権限を与え、速やかに目的とする内容を執行・成就させよう、と考えたのかもしれません。
つまり、呪文や霊符の後に急々如律令をつけると「天帝の権威と命令によってグズグズしないで早く成就させよ!もしも、これに違反すると天帝が決めた律令という絶対的な取り決めによって厳重に処罰されるぞ」という感じになったのだろう、と思います。
後の時代になると、この急々如律令をもっと強めるものとして「火急如律令(かきゅうにょりつりょう、一気に走る火のように目的とすることを早く成就させよ!)」というものも出てきます。さらにこの急々如律令はその後どんどん変化していって、「オン〜(ソワカ)急々如律令」や「南無〜急々如律令」、「オン・リ・オンオン・オン・リ・オン(以下、意味不明語が続く)・ウンウン・急々如律令」という密教の真言や仏教の経文などと一緒になったものも出現します。


病気治療の霊符と急々如律令

さて、この急々如律令が最後につく霊符はかなり古い時代に中国から我が国に伝わっていたことが、昔の出土物や歴史的資料によって分ります。
実は、現代なら感染症や伝染病はウィルスや細菌によって流行すると分かっていますが、昔は感染症や伝染病などの疫病を流行させるのは鬼や妖怪で、彼らが人に取り憑くことによって起こると考えたため、医師が病人を治すために行う投薬治療と共に、そのすぐそばで僧侶や陰陽師が病気を引き起こす鬼や妖怪を祓いましたが、この治療の際の投薬や祈祷の他に「~急々如律令」という霊符もよく使ったのです。
実際、昔の日本の医学書や祈祷書には「当病平癒(とうびょうへいゆ)急々如律令」とか「疫病悉滅(えきびょうしつめつ)急々如律令」などと書かれた霊符が数多く記載されています。


陰陽師の急々如律令

私が指導した安倍晴明が登場する映画やドラマの中で、晴明が剣印で五芒星(ごぼうせい)を描きながら「急々如律令」と唱える星型の九字(くじ)をよく切っていますが、実はこれは晴明の頃にはなかった九字でした。
ですが、映画「陰陽師」の撮影中に「ここで一つ、晴明に何かをやらせたい」と突然提案された時、江戸時代の陰陽師の資料の中に星九字(ほしくじ)を切りながら「急々如律令」と唱える九字があったのを思い出し、「安倍晴明がカッコよく、面白いものになるかもしれない」と考えて、急遽採用し指導したものでした。ところが、その後の他の映画やドラマの指導の際に、この星九字が定番のものになったわけです。
また映画やドラマの晴明が「邪気退散急々如律令」や「祓鬼除魔(ふっきじょま)急々如律令」と呪文を唱えて鬼や妖怪、魔物を祓いますが、歴史的に実在した晴明や他の陰陽師達は祈祷や祓いの際に「~急々如律令」と呪文を唱えることは、そんなに多くなかったのです。
実際の陰陽師の祈祷や祓いは貴族の屋敷の庭に祭壇を組み、さらに祭壇の上に供物を並べて、その前で祭文(さいもん)という祈願文を読んだり、様々な所作や儀式を行ったものでしたが、映画やドラマでは演出上の問題や時間の関係などの理由で短くデフォルメしたシーンにせざるを得ない、という事情があるためにあのような形になってしまったのです。

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・プロフィール
高橋圭也(たかはしけいや)
ドラマ「陰陽屋へようこそ」「陰陽師」、映画「陰陽師」等の陰陽道指導を行う陰陽道・陰陽師研究家。
2020年3月29日にテレビ朝日にて放送されたドラマスペシャル「陰陽師」監修。
世界一のSEIMEI(安倍晴明)の剣印ポーズの生みの親。神道霊学研究家。兵法学研究家。
明階神職資格取得。
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