陰陽師にとっての怪異

こんにちは。
陰陽道・陰陽師研究家の高橋圭也です。
前回は、陰陽寮の4つの官庁と、陰陽師の実際の活動についてお話ししました。
今回は陰陽師にとっての「怪異」についてお話しします。

古代中国の先秦~隋・唐時代頃くらいまで「天人相関説」(てんじんそうかんせつ)、つまり天と人間は一体であり、天が地上に生きる人間の行動に対して敏感に反応すると考えました。また当時は現在の占いのように天の五惑星や地上の陰陽五行が人間の行動を決定し、縛るものとは考えてはおらず、人間の行動や思考のあり方が天の五惑星や地上の陰陽五行に影響を与えて運行させる、と考えたのです。
さらに天からの許可を得て地上を治める権利を得た為政者や権力者が政治を行うとされ、その彼らの政治を行う姿勢を天が判断して天の五惑星や地の陰陽五行の運行を決め、地上に天災(災害)や祥瑞(しょうずい、目出度い徴)などの禍福の現象が起こるとも考えました。


董仲舒の災異論

この古代中国の天人相関説を元にして、漢代の儒学者・董仲舒(とうちゅうじょ)は独特の陰陽五行論を加味した「災異論(さいいろん)」を唱えました。
董仲舒は「為政者や権力者が誤った政治を行うと、天はまず地上の五行のバランスを崩して災害(台風や洪水、干ばつなど)を起こし、為政者に警告を与えるが、彼らが天の警告(天罰ではありません)に対して反省することなく正しい政治を行わないと地上の五行のバランスをもっと崩して『怪異』(日食や月食、地震、四季における気温変化や動植物の異常現象など)を起こして、さらに強い警告を与えて反省を求める。だがこれでも、彼らが正しい道に戻らないと、最終的に為政者に破滅、滅びをもたらすのである。これは、天の御心が非常に慈悲深いので人君に仁愛(じんあい)を垂れて、この世の混乱をくいとどめようとするからだ」、また「為政者や支配階級の王者の徳が衰えると、この世を正しく治めることができなくなるので大臣や家臣が離反して善良な庶民たちを痛めつけてその財産を奪ったうえに、刑罰をさらに重くする。そうすると地上の人々の間に不満による邪気が生じ、それが地上に充満して怨恨憎悪が天に昇り集まっていく。こうして天と地、上と下の間に不和が生じると、この世の陰陽の働きにひずみを生じて、様々な不祥事が発生する。これが災異である」と唱えました(『漢書・董仲舒伝 第二十六」より)。


日本における災異・怪異論の変化

さて、古代の日本では古代中国の天人相関説を踏まえた董仲舒の災異論を基本原理に据えて政治を行い、さらに皇室や有力貴族、または彼らと縁故のある寺や神社で起こった怪異現象を陰陽師が六壬式占(りくじんしきせん)で占って、董仲舒に仮託した「董仲舒祭法(とうちゅうじょさいほう)」という五行書(ごぎょうしょ)によって種々の祈祷や祓いを行ったのです。
しかし日本には「天孫降臨(てんそんこうりん)」、つまり高天原(たかまのはら)の神々の子孫の皇室が日本を治めると考えたので、古代中国の儒教的な天人相関説や災異論の天の概念を理解、受容しきれずに天の警告がいつの間にか「神仏の意志、神仏からの警告」に変わり、予期せぬ非日常的な出来事(怨霊や悪霊等の心霊怪奇現象ではなく、日常で普通あまり起こり得ない現象)が「神仏よりのお知らせ」や「神仏を正しく祭っていない」、または「目に見えない不可思議な神霊や精霊(もの)によるお知らせ」のために怪異が起きる、という形に変化したのです。その怪異が起きた際には災いを収めるために皇室や為政者たちは物忌(ものいみ)という寺や神社に籠って外界との交流をすべて遮断して写経や読経などを行って身を慎むことに努め、その後に庶民に対して善い政治を行う徳化政策を行いました。


陰陽師と怪異について

さて陰陽道においては怪異を「けい、もののさとし」と読み、「日常生活ではめったに起き得ない現象(鳥や蛇が居住区画に入った、鼠が食物を齧った、尋常ならざる音が聞こえたなどの現象のことで、怨霊や悪霊などによる心霊怪奇現象ではありません)が未来に起こるであろう国家的な事件の前触れ、前兆、神霊(もの)からの何らかのお知らせ」と考えました。
この事件の前兆である怪異が起きると、その怪異の発生時間の占時(占う時間の十二支)と月将(げっしょう、太陽の位置を示す十二支)を元に陰陽師が六壬式占で将来起こる事件や災いの内容・詳細を占ったのです。
実はあの安倍晴明も幾つかの六壬式占文を書き、それが現在も残っています。例えば、官庁の建物に蛇が出た怪異を晴明が六壬で占って「これは反乱や戦争の前兆」としたり、また官庁の建物に鳩が飛び込んだ怪異を「戦闘の前兆」、さらに官庁の建物に馬が飛び込んだ怪異を「役人が何等かのことで上から呼び出しを受けるか、役所内で役人同士が言い争いをする前兆」としています。その他にも、貴族の藤原氏の屋敷内でネズミが食べ物をかじった怪異を「屋敷内の人間同士の言い争いか、屋敷の人が病気になる前兆」として、晴明は報告書の六壬式占文を書いています。
さらに晴明の他の陰陽師達が書いた六壬式占文も数多く残っています。例えば、鎌倉時代のある日、歌人の藤原定家(ふじわらのていか、「新古今和歌集」や「小倉百人一首」などの撰者)の屋敷の畳をネズミが食い破るという怪異を陰陽寮の漏刻博士・安倍泰俊(あべのやすとし、時刻を知らせる漏刻部門の長)が六壬で占って「これは病気と火事の前兆」と出たので「よくよく注意するように」と報告したそうです。

以上、式占文の概略を挙げましたが、この後に六壬の四課三伝(しかさんでん)の各項目から導き出した事件や災いが起る地方が都から見てどの方位か、またはその事件や災いを防ぐために物忌を行う月や日、物忌を行う人の生れ年の十二支などを報告文の六壬式占文(りくじんしきせんもん)に書き、陰陽師は中央に提出したのです。
その後、怪所の祓い(かいしょのはらい)という怪異が発生した場所のケガレ、つまり乱れた五行の気を整える祓いを陰陽師は行いました。

**********
高橋先生の講座が開催されます!
今回は、この干支式の九図の名義と晴明流八門を併せて用い、より完全な強い威力を発揮する占法についてお話しします。前回に引き続き、安倍晴明、陰陽師ファン垂涎の秘伝占術公開のこの絶好の機会を逃すなかれ!
詳細はこちら

**********
・プロフィール
高橋圭也(たかはしけいや)
ドラマ「陰陽屋へようこそ」「陰陽師」、映画「陰陽師」等の陰陽道指導を行う陰陽道・陰陽師研究家。
世界一のSEIMEI(安倍晴明)の剣印ポーズの生みの親。神道霊学研究家。兵法学研究家。
明階神職資格取得。
Twitter